Inkittは、アマチュア作家たちが自作の小説をアップロードしシェアできる無料のサービスを展開しているスタートアップ企業である。この企業は、Inkitt上での小説の「読者の読むパターン」をデータ分析し、「成功が予測される」作品をピックアップして、彼らの有料アプリ「Galatea」で公開する戦略を採っている。さらに、ストーリーの進行をABテストすることで読者の反応を掴むAIの編集ツールも取り入れている。
「ハリー・ポッター」の出版は、13の出版社に拒否された
具体的に言うと、Inkittは「読者の視点から」読む価値のある小説の素材のデータを収集、分析し、その後有料で提供するという、従来の出版業界の常識を覆す革新的なビジネスアプローチで成功を収めている。
この会社のコミュニティには、少なくとも700万の読者と30万の作家が既に参加している。そして、コロナの影響で家にいる時間が増え、読書の需要が高まったことを機に、約83億円という巨額の資金調達に成功し、大きな注目を集めた。
CEOであり創設者のAli Albazazがこの会社を立ち上げたきっかけは、J・K・ローリングの「ハリー・ポッター」が13社、スティーブン・キングの『キャリー』が30社の出版社に拒絶されたという事実を知ったこと。純粋に直感や主観で作品を選ぶ「古典的な」出版手法の誤りを悟り、より科学的な方法でヒット作の可能性を持つ作品を選び、育て上げることを強く志向した。
「学費をカバーするくらいの収入を得られたら」と思っていたが、驚くべき11億円もの収益
Inkittという無料のプラットフォームで瞬く間に注目され、Galateaで「The Millennium Wolves」を含む12のエロティックファンタジー小説を出版し、驚異の1億2500万ダウンロードを達成した作家、それがイスラエルのSapir Englard(サピア・エングラード)氏である。
エングラード氏はボストンのバークリー音楽院への進学を夢見ており、Inkittにアップロードした作品の収益を学費に使う計画だった。しかし、彼女の作品は予想を超えるヒットとなり、バークリー音楽院の学費を大きく上回る、少なくとも800万ドル(約11億円)の著作権料を得た。そして、彼女は最近、その音楽院の全てのコースを終了させた。
異なる表現に変更します:
エングラード氏も、自らの作品を「従来の」出版社を通じて紙の形で出版するという希望を抱いていたように思われる。しかし、彼女は自分のFacebookアカウントで、この大ヒットシリーズの続編もGalateaでの公開を選んだと明かした。
彼女の投稿には「私が従来の出版の形で作品を出すことを熱望していることは変わらない。ただ、私の希望とは別に様々な状況や契約の関係でこの選択をした」との内容がある。何が彼女をGalateaとの継続的な連携に導いたのか、注目すべき点である。
エマ・トナー氏に日本進出の詳細を尋ねた
Inkittはベルリンを基盤とする本社をサンフランシスコに移すことになり、LinkedInをはじめとする複数のプラットフォームで、「シニア・マーケティング・マネジャー」および「コンテント・アンド・ローカライゼーションマネジャー」の積極的な採用を公に伝えている。
その計画について、同社のチーフ・インターナショナライゼーション・オフィサーであるエマ・トナー(Emma Tonner)氏に取材を行い、彼女からの返答を得ることができた。以下、トナー氏のコメントを紹介する。
日本進出のタイミングはいつを想定していますか?
今年の10月から年末までの間に、日本の読者層に向けて私たちのコンテンツを展開する予定で、その基盤の構築は既に始めています。
日本市場をターゲットとして選択した理由は?
過去1年で、多言語へのGalateaの展開を進める中で、さまざまなコンテンツの翻訳を実施してきた。書籍のグローバル市場を研究していく中で、日本の電子書籍市場の規模や、特に高品質なエンターテインメントやロマンスジャンルへの関心の強さを見て取った。私たちの提供する10代向けの恋愛小説やライトノベルが、日本の読者にとって魅力的であると信じている。
初年度のビジネスの目標規模はどうか?
最初の1年で、読者200万人を目指している。開始当初の数ヶ月間は、世界各地の作家によるトップランクの既存コンテンツを提供し、読者に楽しんでもらうことを重視する。そして、2024年からはInkittに日本の作家を参加させ、日本独自のコンテンツも増やしていきたいと考えている。
日本での出版では、どのジャンルに焦点を当てるのか?
また、小説以外、例えばビジネス書などの出版も考えているのか?
私たちはInkittでの読者の反応と行動を基にして出版を選んでいる。主な目的は「読者が愛してやまないコンテンツ」をGalateaで提供することだ。
トナー氏は現段階では実物の書籍の出版の予定は無いと言及している。しかし、日本の「取次」や「再販制度」といった独特のシステムが彼らにとって障害になる可能性があるのか、また、伝統的な編集者の「直感」や「センス」を技術は本当に超えられるのか、といった疑問も浮上する。非常に関心が高まる。
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